CESC 60周年記念誌「Jump to the furure!」
21/96

21関西大学大学院心理学研究科教授池見 陽  特定非営利活動法人 カウンセリング教育サポートセンター (NPO CESC) の理事・関係者・サポーターの皆様、創立60周年を迎えられ、おめでとうございます! 東京カウンセリング・スクールの時代から一貫してカール・ロジャーズや私の大学院時代の恩師であったユージン・ジェンドリンのカウンセリングへの考え方を基盤に据えた活動を展開されてこられたことは、その思考が多くの方々の賛同を得て、今後もその思考が社会にインパクトを与え続けるものとして、勇気づけられる次第です。 さて、「その思考」を解説するとこの祝辞の字数には到底おさまりませんが、ジェンドリン先生はいつも人の体験に「お仕着せ」(impose) をしてはいけないと言っておられました。また、カール・ロジャーズは、自分のアプローチは “locate power in the person, not the expert” と「エキスパートにではなく、人に力を見出すのだ」としています。人に創造力があるからこそ、創造性に満ちた問題解決が可能なのです。人に本来的な生を開拓していく力があるからこそ、人はより個性的で自分らしい生を展開していくことができるのです。 これらはエキスパートのアドバイスに従ったからできることではありません。だからこそ「お仕着せ」はしないのです。それは人が自ら秩序を生み出す力への根本的な信頼なのです。人の体験に内在する「内なる知恵」に光をあてて、それを言葉などで象徴化していくことで新しく生き進んでいくことができるのです。それは「人類の歴史にかつてない新しいもの、あなたと私の間で」と私の恩師ジェンドリンは語っていました。 ところが、内なる知恵を参照するのではなく、外部に答えを検索して求める傾向が社会では強くなってきているように感じます。外部の基準に自分を合わせようとしたとき、その人に内在する力が見失われていく危機が訪れます。今の心理臨床業界にはまさにそのような危機が迫っています。心の内なる知恵ではなく、エビデンスに基づく介入を求められているからです。 そんな今日だからこそ、NPO CESC には期待が高まっていくばかりなのです。人に内在する力や知恵を見出していく教育を今後もサポートしていかれますことを願って祝辞とさせていただきます。創立60周年を迎えて CESCに期待すること

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る